おひとりですか?

病院へ検査結果を聞きに行った日。
診察室へ入ると、先生は開口一番、

「おひとりですか?」

と聞いた。

その瞬間、私はピンときた。
ああ、私はがんだったんだ。
そう思った。

恐る恐る聞いた。

「……がんなんですね?」

先生は静かに答えた。

「はい。グレード5です」

頭が真っ白になった。5って何だろう。
手遅れなのかな。

あとどれくらい生きられるんだろう。
本当に一瞬の間に、いろんなことを考えていた。

そんな私の肩に、看護師さんがそっと手を置いてくれた。

「大丈夫?」

そして続けて言った。

「グレードとステージは違うからね」

先生も穏やかに続けた。

「ステージ1だよ」

「それも0に限りなく近いから大丈夫」

私はその時、初めて少しだけ息ができた気がした。

先生は、

「信頼できる外科医を紹介するからね」

と言ってくれた。

そして診察が終わる頃、ぼんやりしている私に、
こんなことを聞いた。

「大丈夫?帰れる?」

「よかったらタクシー呼ぼうか」

「車は後日取りに来たらいいからね」

街中にある病院だった。駐車場だって決して広くない。
それなのに、そんな言葉をかけてくれた。

帰り際には、看護師さんがまた声をかけてくれた。

「最短で予約取るからね」

「すぐ連絡するからね」

今思い出しても、胸が温かくなる。
私は昔から、人の温かさを感じるのが苦手だった。

誰かに頼ることも、
甘えることも得意じゃなかった。

でもあの日だけは違った。

乳がんだと告げられた日なのに、
思い出すのは病名よりも、
先生や看護師さんの言葉ばかりだ。

「大丈夫?」

「車は後日取りに来たらいいからね」

「最短で予約取るからね」

あの日、
私はたくさんの人に支えられていた。

人の優しさって、
大きなことじゃないのかもしれない。

何気ない一言だったり、
肩に置かれた手だったり。

そんな小さな温かさに、

私は救われていたのだと思う。

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この記事を書いた人

めい|凪の森

53歳の会社員。
今の仕事は好きではありません。

だからといって、
すぐに辞めるつもりもありません。

お金のこと。
働き方のこと。
人生の後半をどう過ごすのか。

考えごとは、なかなか減りません。
凪の森では、そんな考えごとを整理しています。

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