夫が亡くなってからというもの、悲しみに浸る暇もないまま、手元にあるたくさんの書類を抱えて、毎日あちこちの窓口を回っていました。
保険証の返納や名義変更など、案内されるがままに番号札を取り、呼ばれた窓口へ向かっては書類に何度も名前を書く日々。手続きそのものには少しずつ慣れてきたものの、心も体もずっしりと疲弊していました。
「これで必要な手続きは、だいたい終わりかな……」
そう思いながら最後の窓口に向かった日のことを、今でも鮮明に覚えています。
役所の窓口で淡々と告げられた「予想外の一言」
そんな中、担当の職員さんが必要書類をテキパキと手際よく整理しながら、ごく自然な、どこか世間話のようなトーンでこう切り出しました。
「あ、ご主人様の今年の住民税ですが、こちらは相続人である奥様に全額お納めいただくことになりますね」
その瞬間、頭の中が真っ白になりました。
「え……? 本人はもう、いないのにですか?」
言葉がうまく喉を通らず、かろうじて絞り出した私の問いに、職員さんは申し訳なさそうな顔を浮かべつつ、淡々と説明を続けてくれました。
住民税というものは「前年の所得に対して、翌年に課税される(後払い)」という仕組みになっていること。そのため、たとえ年の途中で本人が亡くなったとしても、前年分の支払義務は消えず、残された家族がそのまま引き継ぐ(納税義務の継承)ことになるのだと。
「本人はいないのに…」制度の冷たさと無知さに打ちのめされて
知識として説明を聞けば、理屈は分かります。でも、大切な人を失い、これからの自分の生活に対する漠然とした不安で胸がいっぱいの私にとって、その現実をすぐに受け止めるのはあまりにも酷なことでした。
「本人がもうこの世にいないのに、どうして税金だけが残るんだろう」 「こんなに大切なお金のことすら、私は知らなかったんだ……」
自分の無知さに激しく打ちのめされるようなショックと、どこか理不尽に思えてしまう制度の冷たさ。手渡された書類の束をぎゅっと胸に抱えながら歩いた役所の帰り道、足取りが恐ろしいほど重かったのを、今でもはっきりと覚えています。
亡くなったあとの日々の生活費をどうやりくりするかだけでなく、過ぎ去った過去の税金までしっかりと背負わなければならないという「現実の重み」を突きつけられた瞬間でした。
💡 豆知識:亡くなった方の住民税はどうなる? 住民税は「1月1日」時点で住所がある人に、前年1年間(1月1日〜12月31日)の所得に基づいて課税されます。そのため、年の途中で亡くなった場合でも、前年分の未払い住民税や、死亡した年までの確定申告に伴う住民税は、相続人が引き継いで納める義務が発生します。
現実を受け止め、ノートを開いて整え直した「これからの暮らし」
けれど、家に帰り、静かな部屋で机の上にノートを広げて深呼吸をしました。
知らなかった自分をいくら責めても、始まらない。感情はすぐには追いつかなくても、これから私が一人で生きていくための「生活の手綱」を、自分の手で握り直さなければいけないんだ。
そう思い直し、届いた通知や納付のスケジュール、そして自分の手元にある資金をノートに一つひとつ書き出し、スッキリと整理を始めました。
不安やショックでぐちゃぐちゃだった感情も、ノートに書いて状況を整理することで、ひとつずつ目の前の現実と向き合う覚覚悟が固まっていきました。
同じように役所の窓口で途方に暮れているあなたへ
もし今、役所の窓口で私と同じようにショックを受け、途方に暮れている方がいたら。
「こんな大切なことも知らなかったなんて」と、どうかご自分を責めないでくださいね。あの日の私も窓口で完全に固まってしまい、手渡された納付書を抱えて、ため息ばかりつきながら道を歩いていました。
大切な人を失った悲しみの中にいるとき、淡々と突きつけられる制度の冷たさに心が追いつかないのは、ごく当たり前のことです。
ただ、この「亡くなった後も過去の税金がかかる」という仕組みをほんの少し頭の片隅に置いておくだけで、「あ、そういえばそんな話があったな」と、心とお金の準備がわずかでもできるようになるかもしれません。
理不尽だな、と心の中で呟きながらも、目の前に届いた現実をひとつずつノートに書き出していく。
それが、私が少しずつ前を向くための、精いっぱいの第一歩でした。
次回のお話
▶︎ 家賃0円と食費半減。数字で紐解く「実質15.5万円」のリアル家計簿 【第5話】
📖 これまでのお話
コメント