付き合って間もない頃だった。
これからどうなるんだろう。
そんなことを考えていた頃、
私は乳がんだと告げられた。
ステージ1だった。
頭の中が真っ白になったわけではない。
でも、
ひとつだけ思ったことがある。
「ああ、結婚はだめだな」
まだ付き合い始めたばかり。
これから先のことなんて、
何も約束していない。
そんな相手に、
がんだなんて言えないと思った。
でも、
言わないわけにもいかなかった。
私は恐る恐る伝えた。
「乳がんだった」
すると彼は、
少しも慌てなかった。
そして、
こう言った。
「胸が片方なくなったとしても何も変わらない」
「関係ないよ」
「医者が勧めるなら取ってしまえばいい」
私はその言葉を聞いた瞬間、
張りつめていたものが切れた。
それまで、
ずっと平気なふりをしていた。
大丈夫だと思おうとしていた。
でも本当は怖かった。
不安だった。
我慢していた涙が、
その時初めて出た。
夫は続けて言った。
「家族にはまだ言わなくていいんじゃない?」
「心配をかけるだけだし、きっと治るよ」
その言葉に背中を押されて、
私は手術が終わるまで家族には話さなかった。
今思うと、
よく黙っていられたと思う。
でもあの頃は、
目の前のことを乗り越えるだけで精一杯だった。
乳がんになったことを、
良かったとは思わない。
できることなら経験したくなかった。
でも、
あの日の言葉がなかったら、
今の夫と結婚していなかったかもしれない。
「関係ないよ」
たった一言だった。
でも、
私にとっては人生を支えてくれた言葉だった。
今でも思う。
私は、
なんていい人を見つけたんだろうって。


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