⑬術前説明

15時になり、術前説明の時間になった。

部屋に入ると、いつもの先生ではなく若い医師が待っていた。椅子に座るよう促され、説明が始まった。

手術は翌日の13時から。がんの大きさは約7mm×12mmで、部分切除を予定しているという。

まずセンチネルリンパ節を2つ採取して検査し、がん細胞が見つかればリンパ節を切除する。見つからなければ検査用の2つだけを取り、がんとその周囲約3cmを切除する。傷の長さは7〜10cmほどになると説明を受けた。

私は気になっていたことを尋ねた。

「ステージ1と聞きました。抗がん剤はステージ1でもするんですか」

医師は静かに答えた。

「抗がん剤が必要かどうかは、手術で取り出したがんを詳しく調べてからでないと分かりません。がんは大きさだけでは判断できません。5mmでも命を落とす方もいます」

その言葉は強く胸に刺さった。

ステージ1と聞いて、どこかで「早く見つかったから大丈夫なのだろう」と思っていた。その安心が、その一言で崩れた。

5mmでも命を落とす人がいる。

それなら、ステージ1とは何なのだろう。

その瞬間、少し前に亡くなった小林麻央さんのことが頭に浮かんだ。自分もそうなる可能性があるのではないか。不安が一気に押し寄せ、気持ちは急に沈んでいった。

私の表情を見たのだろう。医師は続けた。

「もちろん、そういう方もいるという話です。今の段階で心配しすぎる必要はありません」

そして話題を変えるように尋ねた。

「手術は右ですね。では右手を出してください。間違えないように印を付けます」

そう言うと、医師は太いマッキーで右手の甲に大きく「みぎ」と書いた。

インクが肌に触れた瞬間、少しひんやりとした感触がした。その冷たさは、今でもはっきり覚えている。

夕食の時間になり食堂へ向かうと、隣のテーブルに座っていた人の左手に、大きく「ひだり」と書かれているのが見えた。

思わず顔を見ると、私より少し年上に見える女性だった。

ああ、この人も明日手術なんだ。

そう思いながら自分の右手を見ると、「みぎ」と書かれていた。

もしかしたら、あの人も私の手を見て、同じことを思っていたのかもしれない。

言葉を交わすことはなかったが、不思議な連帯感のようなものを感じた。

しばらくすると、仕事を終えた夫(彼)が病院へ駆けつけてくれた。

顔を見るなり、最初に言った言葉は、

「術前説明に間に合わなくて、ごめん」

だった。

仕事を終えて急いで来てくれたことは分かっていた。責める気持ちはまったくなかった。その一言がうれしかった。

夫(彼)が帰ったあと、病室は静かになった。

眠ろうとしても、なかなか眠れない。

それでも私は、「眠れないくらいの方が、明日の全身麻酔ではぐっすり眠れるかもしれない」と、素人らしいことを考えていた。

20時の回診で主治医が病室に来てくれた。

短い時間だったが、いつもの先生の顔を見ると少しほっとした。

それでも、眠れない夜は長かった。

翌日はいよいよ手術だった。

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この記事を書いた人

50代会社員。
お金、働き方、人生のこと。

答えを探しながら、
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