手術の前に、いくつかの検査を受けた。
正直、何を検査したのかはあまり覚えていない。ただ、肺活量や心電図を調べたことは覚えている。
「手術って、こんなことまで調べるんだ。」
そんなことを思いながら、一つひとつ検査を受けていった。
その日のことは曖昧なのに、一つだけ鮮明に覚えていることがある。
最後に受けた、全身麻酔の説明だった。
説明を受けた場所には椅子が用意されていた。そのときは、ほかに患者さんはいなかった。
医療スタッフから、全身麻酔について説明を受けた。人工呼吸器を使うことや、アレルギーについての確認もあった。
恥ずかしながら、そのとき頭に浮かんだのは、ドラマ『医龍』のワンシーンだった。
金髪の阿部サダヲが、「1、2、3……7。はい、落ちた。」と言う場面だった。
私の全身麻酔の知識は、その程度だった。
だから私は、全身麻酔は眠るようなものだと思っていた。
ところが、説明は私の想像とはまったく違っていた。
全身麻酔を受けるということは、自分では呼吸もできなくなるということだった。
その時間、私の命は麻酔科の先生に委ねられる。
「えっ……。」
思わず声が漏れた。
すると、医療スタッフは慣れた口調で言った。
「初めての方は、驚かれる方が多いですよ。」
「そうか……。」
ドラマで患者さんの口元についていた、あの小さな管は人工呼吸のためのものだったのか。
何度も見ていたはずなのに、自分がその立場になるまで、その意味を考えたことは一度もなかった。
がんを切り取る手術よりも、自分で呼吸ができなくなることの方が、私にはずっと恐ろしく感じられた。
家に帰って、その話を夫にした。
夫は以前、大きな手術で全身麻酔を経験していた。
「そうだよ。みんな同じだから大丈夫。」
夫はさらっとそう言った。
今思えば、全身麻酔について何も知らなかったのは私の方だった。
それでも、あの日の私は本気で思った。
全身麻酔は、一度死ぬことじゃないか、と。


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