⑪全身麻酔は、一度死ぬことだと思った

手術の前に、いくつかの検査を受けた。

正直、何を検査したのかはあまり覚えていない。ただ、肺活量や心電図を調べたことは覚えている。

「手術って、こんなことまで調べるんだ。」

そんなことを思いながら、一つひとつ検査を受けていった。

その日のことは曖昧なのに、一つだけ鮮明に覚えていることがある。

最後に受けた、全身麻酔の説明だった。

説明を受けた場所には椅子が用意されていた。そのときは、ほかに患者さんはいなかった。

医療スタッフから、全身麻酔について説明を受けた。人工呼吸器を使うことや、アレルギーについての確認もあった。

恥ずかしながら、そのとき頭に浮かんだのは、ドラマ『医龍』のワンシーンだった。

金髪の阿部サダヲが、「1、2、3……7。はい、落ちた。」と言う場面だった。

私の全身麻酔の知識は、その程度だった。

だから私は、全身麻酔は眠るようなものだと思っていた。

ところが、説明は私の想像とはまったく違っていた。

全身麻酔を受けるということは、自分では呼吸もできなくなるということだった。

その時間、私の命は麻酔科の先生に委ねられる。

「えっ……。」

思わず声が漏れた。

すると、医療スタッフは慣れた口調で言った。

「初めての方は、驚かれる方が多いですよ。」

「そうか……。」

ドラマで患者さんの口元についていた、あの小さな管は人工呼吸のためのものだったのか。

何度も見ていたはずなのに、自分がその立場になるまで、その意味を考えたことは一度もなかった。

がんを切り取る手術よりも、自分で呼吸ができなくなることの方が、私にはずっと恐ろしく感じられた。

家に帰って、その話を夫にした。

夫は以前、大きな手術で全身麻酔を経験していた。

「そうだよ。みんな同じだから大丈夫。」

夫はさらっとそう言った。

今思えば、全身麻酔について何も知らなかったのは私の方だった。

それでも、あの日の私は本気で思った。

全身麻酔は、一度死ぬことじゃないか、と。

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この記事を書いた人

50代会社員。
お金、働き方、人生のこと。

答えを探しながら、
凪の森を書いています。

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