15時になり、術前説明の時間になった。
部屋に入ると、いつもの先生ではなく若い医師が待っていた。椅子に座るよう促され、説明が始まった。
手術は翌日の13時から。がんの大きさは約7mm×12mmで、部分切除を予定しているという。
まずセンチネルリンパ節を2つ採取して検査し、がん細胞が見つかればリンパ節を切除する。見つからなければ検査用の2つだけを取り、がんとその周囲約3cmを切除する。傷の長さは7〜10cmほどになると説明を受けた。
私は気になっていたことを尋ねた。
「ステージ1と聞きました。抗がん剤はステージ1でもするんですか」
医師は静かに答えた。
「抗がん剤が必要かどうかは、手術で取り出したがんを詳しく調べてからでないと分かりません。がんは大きさだけでは判断できません。5mmでも命を落とす方もいます」
その言葉は強く胸に刺さった。
ステージ1と聞いて、どこかで「早く見つかったから大丈夫なのだろう」と思っていた。その安心が、その一言で崩れた。
5mmでも命を落とす人がいる。
それなら、ステージ1とは何なのだろう。
その瞬間、少し前に亡くなった小林麻央さんのことが頭に浮かんだ。自分もそうなる可能性があるのではないか。不安が一気に押し寄せ、気持ちは急に沈んでいった。
私の表情を見たのだろう。医師は続けた。
「もちろん、そういう方もいるという話です。今の段階で心配しすぎる必要はありません」
そして話題を変えるように尋ねた。
「手術は右ですね。では右手を出してください。間違えないように印を付けます」
そう言うと、医師は太いマッキーで右手の甲に大きく「みぎ」と書いた。
インクが肌に触れた瞬間、少しひんやりとした感触がした。その冷たさは、今でもはっきり覚えている。
夕食の時間になり食堂へ向かうと、隣のテーブルに座っていた人の左手に、大きく「ひだり」と書かれているのが見えた。
思わず顔を見ると、私より少し年上に見える女性だった。
ああ、この人も明日手術なんだ。
そう思いながら自分の右手を見ると、「みぎ」と書かれていた。
もしかしたら、あの人も私の手を見て、同じことを思っていたのかもしれない。
言葉を交わすことはなかったが、不思議な連帯感のようなものを感じた。
しばらくすると、仕事を終えた夫(彼)が病院へ駆けつけてくれた。
顔を見るなり、最初に言った言葉は、
「術前説明に間に合わなくて、ごめん」
だった。
仕事を終えて急いで来てくれたことは分かっていた。責める気持ちはまったくなかった。その一言がうれしかった。
夫(彼)が帰ったあと、病室は静かになった。
眠ろうとしても、なかなか眠れない。
それでも私は、「眠れないくらいの方が、明日の全身麻酔ではぐっすり眠れるかもしれない」と、素人らしいことを考えていた。
20時の回診で主治医が病室に来てくれた。
短い時間だったが、いつもの先生の顔を見ると少しほっとした。
それでも、眠れない夜は長かった。
翌日はいよいよ手術だった。


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