夫は自分なりの信じるものを持っている人だ。
ご先祖さまを大切にする。
六星占術も信じている。
けれど、流行りのものに飛びつくタイプではない。
恵方巻を食べるような人でもなかった。
そんな夫が、その年の節分は恵方巻を買ってきた。
乳がんが見つかり、不安な日々を過ごしていた頃だった。
夫が言った。
「きっとよくなる。」
そして、
「初めてだけど、恵方巻を食べよう。」
方角まで調べていた。
めんどくさがり屋の夫が。
「こっちを向いて。」
「黙って食べるらしいよ。」
そんなことを言いながら準備していた。
私はその姿を見ながら、
少し可笑しくて、
少しうれしかった。
きっと本人は大したことをしたつもりはない。
でも、縁起なんて気にしない人が、
私のために方角を調べていた。
今思えば、
あれが夫なりの応援だったのだと思う。
あの年の恵方巻の味は覚えていない。
でも、
二人で黙々と恵方巻を食べた、あの時間は今でも覚えている。
きっと、一生忘れない。


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